2018年12月12日

相続分の譲渡についての最高裁判例

 波多江です。

 最高裁判所が、相続分の譲渡について、東京高等裁判所の判断を覆す判断をしました(平成30年10月19日第二小法廷判決)。

 相続分の譲渡というのは、相続人が有する相続分を他の相続人や第三者に譲渡することです。
 相続問題に巻き込まれたくない場合に、自分の相続分を他の相続人に譲渡するというような形で利用されます。

 今回の最高裁の事案でも、お父さんの相続の際、お母さんがその相続分を長男に譲渡していました。
 争われたのは、その後お母さんが亡くなった時で、他の相続人が、お母さんがお父さんの相続の際に長男に相続分を譲渡した点を、お母さんから長男への贈与にあたると主張して、長男に対して自分の取り分を主張しました。

 これに対して、高等裁判所は長男への取り分の主張を認めなかったのですが、最高裁はこれを覆し、相続人の主張を認めました。
 判示内容は以下のとおりです。

共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。

 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/060/088060_hanrei.pdf

 この事案がどうだったかは分かりませんが、相続の際には、なるべく遺産を分散させない必要がある場合や、誰かに遺産を集中させたい場合もあります。逆に、誰かが画策して独り占めを狙い、他の相続人はこれを何とか回避したいという場合もあるでしょう。
 いろいろな利害や感情が交錯し、法律上遺留分や特別受益など込み入った制度があることもあって、とかく相続はもめることが多いものです。その結果、当事者が思っているような解決にならないこともままあります。

 事業の承継や自宅の維持等、相続について特別の要請がある場合や、相続人間でなるべく揉まないようにしておきたい場合など、早め早めの準備を、弁護士や税理士等の専門家を交えてしておく必要があります。
 お子さんのいないご夫婦の場合は、残された方がパートナーの兄弟と遺産を一緒に相続することになるため、遺言を利用を検討する必要があります。
 「そんなに財産はないから・・・」と言われる方もいますが、遺産が少なくても揉める時は揉めます。

 これをきっかけに、ご自身、ご家族の相続について考えてみられてはいかがでしょうか?

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(波多江)

posted by あかつき法律事務所 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 法律知識

2018年09月19日

パワハラ・セクハラについて

波多江です。

最近、パワハラやセクハラの報道が多いですね。

パワハラの事件で、時々耳にするのは「自分たちもそうされてきた」「よかれと思ってやった」「そういうつもりではなかった」というような弁解です。

本人からすればそれが本心なのだと思いますが、そういう弁解は全く通用しません。

パワハラになるかは、両者の関係性と行われた行為の内容で決まります。行った人がどう思っていたかは重要ではありません。

厚生労働省は以下の行為をパワハラの典型例として示しています。
  1.暴行・傷害(身体的な攻撃)
  2.脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
  3.隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
  4.業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
  5.業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
  6.私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

これらに該当するような行為をすれば、どんなつもりでやっても(指導のつもりでも、愛のムチのつもりでも、何でも)パワハラと言われうるわけです。

列挙されると、当たり前のように感じますが、あり得ないと思われる上記1であってもスポーツ界では指導の一環のように暴力が使われてきました。

上記2にしても、厳しく指導しているつもりがこれにあたることはあり得ます。特に、これまで厳しく育てられ、指導されてきた、私も含めた昭和世代は要注意です。「自分がされていた」「それくらいしないとわからない」というのも、理由にならないことを肝に銘じておくべきです。

セクハラもそうですね。

時々、「いい男がすれば問題とならないのに」とか「相手が嫌と思えばセクハラになるのは納得できない」などと耳にしますが、これもかなりずれています。

セクハラとされるか否かは、「平均的な女性(男性)労働者の感じ方」を基準として判断されるので、そういうことをしたら普通相手が嫌がるような行為かどうかということが問題なのです。

決して「いい男ではないから」セクハラになるわけではありませんし、「相手が嫌だ」と思ってしまえば何でもセクハラになるわけでもありません。

気を付けるべきは、こういうことをしたら普通相手が嫌がるかどうかであり、重要なのはそれをきちんと理解することができる想像力だろうと思います。

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(波多江)
posted by あかつき法律事務所 at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 法律知識

2013年07月07日

子の自転車事故による親の損害賠償義務


 先日、小学5年生が、自転車で女性に衝突して転倒させ、女性は現在も意識が戻っていないという事案で、少年の母親に監督義務違反を認め、損害賠償義務を認定した判決が出されたようです(平成25年7月4日神戸地裁)。


<自転車事故>少年の母に賠償判決 衝突転倒、意識戻らず

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130704-00000082-mai-soci

 この記事の中では、「約3520万円の支払いを命じた。」と書かれていますが、以下の記事によると、保険会社からの請求も認定されており、合計すると約9520万円の支払い命令となっているようです。

自転車事故:損保会社の保険金も少年の母に支払い命令

http://mainichi.jp/select/news/20130705k0000e040177000c.html


 一般の方にとっては、「子の不始末について親が責任を取るのは当たり前だ」と思われるかも知れませんが、法律上は、必ずしもそうではありません。

 記事によれば、「自転車が時速20〜30キロ程度で速かった」とのことですが、坂道を走行しているときとのこと。

 昨今問題となっている歩道上の暴走自転車については、私も常日頃苦々しく思っているのですが、子どもが、坂道で時速20〜30kmで下るのって・・・あり得ることなのでは・・・(どうでしょうか、本ブログをご覧のみなさんの中にも、(特に男性は、)子どものころ坂道を自転車でびゅーんと下るのが楽しかった、という方はいらっしゃるのではないでしょうか。)。

 信号無視とか、人混みの間を猛スピードで駆け抜けていったとか、そういうのとは少し違うようにも思います。

 記事からは、これ以上の事情は分かりませんが、弁護士としては、本当にこれだけの事情で親の監督義務違反を認めたのか、それ以上に何らかの事情があったのか、興味がわくところです。


 ただ、そのあたりの事情はともかくとして、子どもがひとたび自転車事故を起こせば、親が高額の損害賠償義務を負う可能性があるという点は、動かしようのない現実と言えます。

 自転車に乗る方、自分が乗らなくても子どもが乗る方、自転車にも賠償保険が必須の時代になったと認識すべきだと思います。

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(石田)

posted by あかつき法律事務所 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 法律知識