去る8月28日(水)、いつものごとく、東京の日弁連会館で、消費者委員会に出席してきました。
そして今回は、委員会終了後の午後6時から、集団的消費者被害回復制度に関するシンポジウムが開かれたので、それに出席してきました。
シンポジウムの名称は、
「えっ、まだ成立していなかったの?! 集団的消費者被害回復制度」
・・・何ともセキララというか、キャッチーな名称ですね(笑)。
ところで、集団的消費者被害回復制度って、何だと思いますか?
以前、「日本版クラスアクション」などと呼ばれたこともありますが、これだとアメリカの、莫大な損害賠償金をぶんどっていく、というイメージが強く、事業者の方にいらぬ警戒心を持たせてしまうため、最近はあまり使われなくなりましたね。
平成12年、消費者契約法という法律ができました。
これは、消費者と事業者の間には、越えられない情報や交渉力の格差が存在することから、一定の場合には消費者から契約の取り消しができるようにしたり、消費者の利益を不当に害する契約条項を無効にしたりといった法律です。
例えば、自宅にやってきて契約を勧誘する業者に対し、消費者が、帰ってくださいと言ったにもかかわらず帰ってくれない、それによって消費者が困ってしまい、契約をしてしまった、といった場合には、その契約を取り消すことができます(不退去型、消費者契約法4条3項1号)。
これは、従前よりも消費者の利益を重視した法律であり、すばらしい成果でした。ただ、これは実際に被害が発生してから(契約を締結してしまってから)の対応であり、事前に被害を防止するものではありませんでした。
そこで平成18年、消費者契約法が改正され、適格消費者団体による消費者団体訴訟という制度が入りました。
これは、消費者契約法(と、景品表示法と特定商取引法)上の不当行為について、事業者に対し、内閣総理大臣の認定を受けた「適格消費者団体」が差し止めを請求することができ、改善が見られない場合には、裁判所に差し止め訴訟を提起することができるという制度です。
例えば、契約をキャンセルした場合は、その時期などの事情は問わず、契約金は一切返しません、というような条項があった場合、これは消費者契約法9条に反するとして、そのような条項の使用を差し止め請求する、というようなことが可能です。
ちなみに、「適格消費者団体」は、現時点で全国に11団体あり、福岡にも「消費者支援機構福岡(CSOふくおか)」があります。
これは、単に取り消し条項が定められているというだけでなく、これから発生するかも知れない被害を防ぐことができるという意味で、画期的なものと言えます。
しかし逆にこれは、今後の被害発生を防ぐものであり、既に発生している被害について、お金を返してもらったりといった個別の救済が行われるものではありません。
そこで、今回、集団的消費者被害回復制度の制定が議論されているわけです。
この訴訟の仕組みは割と難しいのですが、ごく簡単に言うと、
・多数の消費者が被害に遭っている事案について適格消費者団体が、事業者に対して訴訟を提起し、その事業者の行為が違法であり、消費者に対し損害賠償なりお金の返還なり、金銭の支払い義務があることを裁判所に認定してもらう。
・業者に、消費者に対する支払い義務があることを認定してもらったら、被害に遭っている消費者に呼びかけ、訴訟に参加してもらい、業者に支払いをさせる。
という形になっています。
消費者被害は、個々の消費者にとっては重大事ですが、客観的に見ると、必ずしも金額の多いものばかりではなく、個人で弁護士に依頼をして被害回復を図るには経済的に見合わない場合も少なくありません。そのため、少なからずの消費者被害が、泣き寝入りのままになっていると言われています。
それに対し、この制度が導入されれば、まずは第一段階で適格消費者団体が業者の責任の有無を明らかにし、消費者はそれが明らかになった後に、第二段階として加わればよいということになり、消費者の負担が非常に軽減されることになります。
これまでは泣き寝入りとなっていた消費者被害の回復につながることが、大いに期待されています。
さて。このように書くと、とてもいい制度じゃないか、早く作ればいいのに、と思われるでしょう。ただ、シンポジウムの名称が「えっ、まだ成立していなかったの?!」とあるとおり、まだこの法律は成立していません。
消費者庁や、弁護士会の消費者委員会の数年来の悲願であり、先の国会で成立が期待されましたが、ご存じのとおり、先の国会の終盤は政局に翻弄され、重要法案がいろいろと廃案(ないし継続審議)となりました。この法案も同じように、残念ながら時間切れ・・・・。
事業者の方から見ると、こんな制度ができたらクレーマー的な消費者からどんどん訴訟が起こされ、ばんばん損害賠償を取られるのではないか、という濫訴に対する警戒が非常に強いようです。
ただこの点には多分に誤解があり、そもそも誰でも訴訟を起こせるわけではなく、内閣総理大臣の認定を受けた特定消費者団体しか訴訟は提起できませんし、対象となる請求権もかなり絞られています。濫訴への心配は、杞憂だと思います。
むしろ私としては、どの業界にも悪徳業者はいると思いますが、そのような業者にはきちんと損害賠償義務を課し、払えないのであれば速やかに退場を願う、という意味で、まじめにやっている業者のためになる制度だと思うのですが・・・。
この法案は、次の国会で審議されることが予定されています。次こそは、無事に成立し、早くこの制度が始まることを期待しています。
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(石田)