さて、19日午前中は、いよいよ韓国医療紛争調停仲裁院の見学です。
その前に、簡単に制度をご紹介しましょう。
これは2011年に法制化され、2012年4月8日に施行された新しい制度です。
国は、法に基づき、「韓国医療紛争調停仲裁院」を設置します。
医療被害に遭ったと考える患者は、調停仲裁院に調停の申請をすることができます。
調停を申請された医療機関は、14日以内にこの調停に応ずるかどうかを返答します。このときに医療機関が調停に応じないと判断すれば、申請は棄却されます。
医療機関が調停に応ずるとした場合、弁護士・医師・消費者団体のメンバーなどから鑑定団が事案を鑑定し、事実関係・因果関係・過失の有無などを検討して鑑定書を作成し、調停部に送付します。
調停部では、この鑑定結果に基づき、当事者双方を調停します。ここで合意ができる場合もありますが(和解成立)、合意ができなかった場合、「調停決定」というものを出します(日本で言う、簡易裁判所の17条決定のようなものでしょうか。)。この決定に双方異議がなければ、それで調停成立、異議があれば調停の手続としてはこれで終わりになります。
このほか、仲裁の手続もありますが、これはいわゆる仲裁法における仲裁とほとんど変わりありませんので、省略します。
なおこの手続は、訴訟等他の手段を排除するものではありません(調停前置主義ではありません。)。
以上の制度の詳細については、
韓国医療紛争調停仲裁院のHP http://www.k-medi.or.kr/
(これはハングルで書かれていますが、「医療紛争調停仲裁院」で検索すると、日本語パンフレットのページにヒットします。)
韓国における「医療事故被害救済及び医療紛争調停等に関する法律」
http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/1507/1/r-ho_044_03_009.pdf
を参照ください(後者の論文の著者である李庸吉氏は、今回の視察団にも参加されていました。)。
と、ご紹介するとお分かりと思いますが、患者側の申請があれば、医療機関の同意がある限り全件鑑定を行って医療過誤の有無を調査するというもので、かなりドラスティックな制度です。
よくこんな制度ができたなあ、と感心していましたが、上記論文には、この法律の目的として、被害者の迅速な救済と共に医療者側には安定的診療環境の確保を目的としているとありました。後者については、「紛争が起こると被害者としての患者側は法的アプローチよりも暴力や狼藉、業務妨害等物理力による非合法的な方法により目的を達成しようとする行動も多く見られた。」とあります。つまり、このような救済のための枠組みを用意することにより、医療機関に対する上記のような物理的攻撃を抑えようという目的もあったようです。この点は、どこまで本当なのかなあと思っていたのですが、前日の患者団体の弁護士さんも、仲裁院の方も、そのように言っていたので、そのような側面があることは真実なのでしょう(実際、この法律には、申請人が刑法に定める業務妨害を行った場合には申請を却下する、という規定もあり、なかなか興味深いものがあります。)。
このあたりは、お国柄と言いますか、日本とはかなり違う背景があるようですね。
そのようにして始まった制度ですが、開始から半年で、相談は1万4000件にも上っているそうです。そのうち9割は電話で、実際に申請にまでいたったのは300件程度とのことですが、この相談件数の多さは、相当に周知・広報を行って制度を開始させたことがうかがえます。

丁寧な案内がされています。
さて、制度としては、弁護士費用を掛けて延々裁判をするよりも、相当に患者側の負担軽減につながるものと思われますが、実際の鑑定はどうなっているのでしょうか。医師側有利な鑑定ばかり出るようだと、被害者を救済するという目的には適わないことになります。
この点、鑑定団付きの調査官をされているKoo Hong Moさん(産婦人科医だそうです。)によれば、制度開始から半年間で13件ほど担当して、医師の有責率は80%程度だとおっしゃいました。
これは非常に有責率が高いですね。
もっとも、調停団の審査官をされているというKoo Young Shinさん(弁護士)によれば、Koo Hong Moさんが担当している部がたまたま有責率が高いだけで、全体としてみれば医師の過失が認められるものは20%程度ではないか、というお話でした。
この20%という数字をどう見るか、評価は難しいところですが、日本の医療過誤訴訟における原告勝訴率からすると、それほど悪くない、医師側にもそれなりに厳しい鑑定がなされている、と評価することもできそうです。
もっともっとお話しをお聞きしたいところではありましたが、お昼までの予定でしたので、その後調停仲裁院の中を見学させていただき、視察は終了となりました。
1つ気になったのは、損害賠償の問題はこの制度である程度解決するとして、「原因究明」「再発防止」といった、今後の医療向上に向けた取組みがなされているのだろうか、という点です。
前者については、全件鑑定がされるわけなので、ある程度原因究明についても振れられているのではないかと思われるのですが、Koo Young Shinさんによれば、調停案はあくまでも調停をして解決するためのものなので、医師に過失があったとかなかったとかはあまり書かない、というようなことをおっしゃっていました(訳語の問題かも知れませんが、そのように聞こえました。)。そうすると、原因究明・再発防止は、この制度ではあまり対象とされていない・・・?
この点は、鑑定書のひな形を資料としていただいてきたので、それらを翻訳してみれば、どういうことが書かれているか分かり、だいぶ解明できるのではないかと思いました。

重々しい雰囲気の調停室
その3に続く
↓ブログ村に参加しています。ワンクリックお願いします。

にほんブログ村
(石田)