2012年10月23日

韓国医療紛争調停仲裁院視察ツアー(その1)


 10月17〜19日、韓国・ソウルに行って来ました。

 メンバーは、九州・山口医療問題研究会と同様に、患者側の医療過誤や医療問題に取り組んでいる弁護士、研究者(学者)、医療過誤被害者の市民団体の方など総勢13名。
 目的は、今年の4月から韓国で始まったという「医療紛争調停・仲裁」制度の視察です。

 17日は夜に着いたので、実質的には18日が視察第1日目です。


 まず18日午前中には、ソウル峨山(アサン)病院を見学しました。

 ここは、韓国の大企業である現代の創始者が設立した病院で、2680床(2011年1月時点)を備える巨大病院です。設立の趣旨は、社会で最も恵まれない人たちの救済、ということのようですが、各種の高度手術、特に臓器移植に力を入れており、手術症例数は世界でもトップクラスとのことで、アメリカからも研修に来ている医師がいるそうです(日本からも1名研修に来ているとのことでした。)。

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 アサン病院会議室からの眺め

 今回の視察の目的は、医療安全・医療紛争の解決等に関することですので、その点について主にお聞きしました。

 峨山病院では、PI(performance improvement)室という組織を設置していて、そこに各診療科からのアクシデント、あるいは現実に患者に危害は加わっていないが問題と思われる診療行為などの情報を集中させることとして、一元的に対処しているそうです。また、この報告が看護師など職員から簡単にできるように、病院内のネットサイトに報告用フォームを用意していて手間を掛けずに報告ができる体制を整えているそうです。
 もっとも、報告の多くは看護師などからで、医師からの報告はまだ少ないという点は、日本と同様の状況に思われました。

 また、峨山病院では、患者からの不満や改善の声を聞く専門の部署(voice of customer)も設けていて、4名ほどが専従で苦情処理にあたっているそうです。

 峨山病院は韓国でも非常に規模の大きな病院であり、これが必ずしも韓国一般の水準を示しているわけではないと思いますが、相当な費用と人員を割いて、医療安全・患者の苦情処理などに対応していると感じました。
 なぜこのように手厚い体制を設けているのか、というのも興味があるところですが、韓国では医療紛争の件数が日本よりも多く、峨山病院で現在15件の訴訟を抱えているということでした。それでも上記のような取り組みを行ってきた成果で、10年前より約4分の1に減ったとのこと。1つの病院で同時に60件程度の訴訟を抱えるとなると、その負担はあまりに大きなものであろうことは、容易に想像がつきます。
 医療安全を重視するに至った背景には、やはり患者側からのプレッシャーが一定程度大きな役割を果たしているのだろうと思われました。

 ちなみに、院内を案内してくださったのは、日本語コーディネーターとして勤務しておられる日本人スタッフの方でした。日本人、中国人、ロシア人がコーディネーターとして勤務しているそうです。
 最近耳にする「メディカルツーリズム」か・・・と思い、日本人の患者も多いんですか、と聞いてみましたが、日本人はそれほどいないとのこと。国境を越えて治療にやってくるのは、中国人、ロシア人が多いそうです。
 いずれにせよ、国際的に患者を獲得することにも力を入れているようで、こういう点でもグローバル化の波は著しいですね。


 次に、18日午後は、韓国の患者団体連合会を訪問し、意見交換を行いました。

 この患者団体連合会は、医療被害者・患者の会ではなく、難病などのいわゆる「患者会」の連合体とのことでした。

 医療紛争調停・仲裁制度ができるまでには、23年間の苦闘があったそうで、ここに至るまでの経緯をお聞きすることができました。

 ただ・・・23年かかったというのはよく分かりましたが、「なぜ今、」このかなりドラスティックとも思われる制度が日の目を見たのか、それは今ひとつ分からず仕舞い・・・。
 今国会が終わってしまえばまた1からやり直しになるので、多少妥協しても悲願達成を優先した、といった事情はよく分かります(日本でもよくある話しです)が、「なぜ今」という部分が・・・どういう社会背景が「今」あって、制度が実現したのか。これは今後さらにお聞きしたいところではあります。

 ここでお聞きしたことで興味深かったのは、4月に医療紛争調停・仲裁制度が始まって、医療側の同意を得て調停手続に入ったのは、申請件数のうち30数パーセントにとどまっているということでした。
 その理由としては、連合会の方(連合会に参加している弁護士の方)は、@医療機関が申請から14日以内に同意しなければ自動的に申請が却下になってしまう制度であること、A賠償金を支払うのは結局医療賠償責任保険の保険会社であり、保険会社の意向が反映すること、などと分析されておられました。
 今後、このパーセンテージが向上するのか減少するのか、注目したいところです。


 この日はこの2箇所で視察は終わり。2日目はいよいよ、韓国医療紛争調停仲裁院の見学です。

 2日目に続く。

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(石田)
posted by あかつき法律事務所 at 14:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 医療関係
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