随分前に担当した事件の審判なのですが、法律雑誌に掲載されましたのでご報告です。
掲載されたのは、「本人の長女による任意後見監督人選任申立ての直後に、本人が長女との任意後見契約を解除するとともに、長男と任意後見契約を締結したことから、長女が申立ての趣旨を法定後見開始に変更し、長男が新たに任意後見監督人選任を申し立てた事案に関し、長男は任意後見人の適格性を欠くとして、法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある」と認められることを理由に、後見を開始するとともに任意後見監督人選任申立てを却下した原審判について、原裁判所の判断は相当であるとして長男の抗告申立てを棄却した事例」というものです(判例時報2372号47頁)。
皆さんも「後見」という言葉をお聞きになったことがあると思います。 判断能力が低下した方の代わりに、法律行為等をするための制度です。
この後見制度には、裁判所に申し立てをして後見人を選任してもらう法定後見と、ご本人が後見人になってもらいたい人と契約をしてそういう状態になった時に後見人になってもらう任意後見という二つの制度があります。
本人がそうなる前に自分で後見人になってもらう人を選んで契約をするという点で、任意後見の方が本人の意向を反映できる制度になっています。
今回、法律雑誌に掲載された審判例は、この法定後見と任意後見のどちらを開始するべきかということが争われた事案です。
この事案が、どうしてそんな問題になったかというと、当初、お母さんと長女が任意後見契約を締結していたのですが、その後、長女が任意後見契約を発効させようとしたところ、その任意後見契約が解除されて、長男を任意後見人とする契約が締結されて、長男がその任意後見契約を発効させようと裁判所に申立をしました。
これに対して、長女が法定後見を申し立てたため、長男の任意後見と長女の法定後見のどちらを開始すべきかということが問題になりました。
法律上の原則としては、任意後見契約が締結されている場合(正確には登記までされている場合)は、法定後見の申立てがなされたとしても原則として裁判所は法定後見の申立てを却下することになっています。本人による自己決定を尊重する趣旨と言われています。
もっとも、「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」は法定後見を開始することができるとされています(任意後見法 10条1項)。
本件では、この「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」にあたるとして、法定後見が開始されました。
立法時の構想では、本人による自己決定を尊重するという趣旨から、任意後見を優先する制度とされていましたが、実際に運用してみると、想定していたようにはなっていないようです。
高齢者を囲い込み自らを任意後見人とする任意後見契約を締結させるという事案もしばしば耳にします。親族間で財産をもつ高齢者の取り合いになることもあります。
高齢者の判断能力が低下していることが多く、他方、認知症が進んでいても通常の会話程度であれば違和感なくできる場合もあることから、任意後見契約を締結する公証役場では、本人の判断能力の程度を的確に把握しにくいということも一因となっているのではないかと思います。
自らの老後を信頼している人に託すという任意後見制度が、よりよく運用される仕組みになるように願っています。
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(波多江)